【SASE実践・適用設計編】[前段] 通信経路とセキュリティ機能を分けて設計する
SD-WANとSSE(Security Service Edge)2つのコンポーネントが絡み合うため、「どこから手をつければいいのかわからない」「設計の全体像が見えにくい」というご意見もあるかと思います。
SASEの設計をスムーズに進めるためのコツは、「通信経路(ネットワーク)」と「セキュリティ機能」を一旦分けて(分離して)考えてみることです。これらを分けて整理するだけで、複雑に見えるSASEの全体像が驚くほどシンプルに見えてきます。
今回は【実践・適用設計編】の前段として、複雑なSASEの設計をシンプルに紐解くための「パーツの分け方」と「通信の2つの方向性」について解説します。
通信の本質を「2つの方向」で整理する
こちらの記事でも紹介しましたが、SASEの具体的な機能に踏み込む前にまずは企業の通信を「誰がどこにアクセスするか」という本質的な2つの方向に整理すべきです。この2つの経路によって、SD-WANとSSEの主役(どちらの機能を重視すべきか)が入れ替わります。
- インターネット向けの通信(外向き):拠点やリモート環境から、Microsoft 365などのSaaSや一般Webサイトへ抜ける通信。
- 社内通信(内向き):拠点間(拠点 ⇄ 本社/DC)、またはリモート環境から社内システム(リモート ⇄ 本社/DC)へアクセスする通信。
この2つの方向性を頭に入れた上で「経路」と「セキュリティ」のパーツを分解していきます。
設計をシンプルにする「3つのパーツ」
適用設計をスムーズに進めるためには、インフラを以下の3つのパーツに分解して定義するのがおすすめのアプローチです。

【パーツ1】SD-WANで制御する機能(拠点エッジ)
主に「内向き通信の最適化」と「外向き通信の交通整理」を担う、ネットワークの足回りのレイヤーです。ここでは高度なセキュリティ検査は行わず、パケットを目的地に応じて「どこに、どう流すか」のルーティング制御に特化させます。
具体的には、拠点エッジデバイス(SD-WANルータ)は主に以下の3つのトラフィック制御を司ります。
- ① ローカルブレイクアウト(LBO):Microsoft 365やZoomなど、信頼できる特定のSaaSトラフィックを識別し、データセンターを経由させずに拠点のローカル回線から直接インターネットへ逃がします。
- ② 拠点間通信(内向き):本社やデータセンター(DC)、他の拠点にある社内システム宛ての通信を、最適なオーバーレイ経路(VPNや閉域網)を選択して安全に相互接続します。
- ③ SSEへの転送(外向き・内向きの関所へ):一般Webサイトや、LBO対象外のSaaS宛ての通信(=セキュリティ検査が必要なトラフィック)をパーツ2で構築するSSEの接続ポイント(POP)に向けてカプセル化して転送します。
【パーツ2】SSEまで到達する経路(トランスポート・接続性)
ユーザーや拠点から、後述する「セキュリティの関所(SSE)」まで、トラフィックを安全に送り届けるためのアプローチ方法の設計です。実はここが、製品選定やアーキテクチャによって設計が大きく変わるパーツです。
- 拠点からの接続(拠点 ⇄ SSE):SD-WANルータ等のエッジデバイスから、SSEの最寄りの接続ポイント(POP)に対してIPsecトンネルやGREトンネルを自動常時接続します。
- このトンネルは通常、インターネット向けの通信(外向き)のセキュリティ検査を通すために使われますが、ソリューション(Prisma Accessなど)によっては、「ZTNAで繋がってきたリモートユーザーが拠点内の社内システムへアクセスするための内向きの経路確保(帰りの通信用トンネル)」として兼用・設計されるケースもあります。
- リモート環境からの接続(モバイル ⇄ SSE):PCやスマートフォンに導入した専用のクライアントエージェントを介して、暗号化された通信をSSEへ直接転送します。
【パーツ3】SSEで実装するセキュリティ機能(クラウドエッジ)
主に「外向き通信の安全確保」と、「内向き通信のゼロトラスト化」の核心となるレイヤーです。すべての通信をクラウド上の「一元化されたポリシー」で検査します。
- DNSセキュリティ: すべての通信の起点となる「DNSリクエスト」の段階で脅威をブロックする防御の第一層です。DNSパケット(クエリ)の内容をリアルタイムに検査し、接続先がフィッシングサイトやC2サーバー(悪意ある司令塔)でないか、不正なAレコード(IPアドレス)が返ってきていないかをチェックします。実装としては、端末や拠点のDNSフォワーダの参照先を「SSEが提供する安全なDNSのIPアドレス」に変更・強制適用する設計が一般的です。
- SWG(Secure Web Gateway):不正なWebサイトへのアクセスブロック、URLフィルタリング、SSL/TLS復号による通信内部のウイルス・マルウェア検知。
- CASB(Cloud Access Security Broker):会社が許可していないSaaS(シャドーIT)の利用制限や、許可されたSaaSからの機密情報漏洩(DLP)を防止。
- FWaaS(Firewall as a Service):Web(HTTP/HTTPS)以外のプロトコルも含め、すべてのポートの通信をクラウド上で制御・ログ取得。
- ZTNA(Zero Trust Network Access):【内向き通信】において、従来の「VPNで一度繋がれば社内はフリーパス」という概念を捨て、「誰が、どのデバイスから、どの社内アプリにのみアクセスしてよいか」を最小特権で制御。
- 注意点:Zscaler(ZPA)などのアーキテクチャを採用する場合、リモートユーザーからのZTNA通信を社内システムに届けるために、ローカル環境(データセンターや拠点)側に専用の接続ポイント(App Connector等)を配置し、SD-WANや既存の社内ネットワークとどう紐付けるかという「接続ポイントの設計」が不可欠になります。「クラウドを入れれば終わり」ではなく、オンプレミス側との境界線をどうデザインするかが重要です。

分けて考えると、なぜ設計・運用が楽になるのか?
これらを混ぜて設計してしまうと、「拠点のルータでどこまでセキュリティをかけるか?」「このSaaSを許可するとき、ルータとクラウドの両方の設定を変えなければいけないのか?」といった設計・運用のジレンマに陥り、管理の複雑化を招きがちです。
役割ごとにパーツを切り離して捉えることで、次のような運用のメリットが見えてきます。
- トラブルシューティングが格段に早くなる 「通信が遅い・繋がらない」ときはパーツ1・2(ネットワーク側)を疑い、「特定のサイトが開けない・制限される」ときはパーツ3(セキュリティ側)を確認する、といったように原因の切り分けが非常にスムーズになります。
- 変化に対して柔軟に対応できる(ポリシーの一元管理) 基本的には、クラウド上のSSE(パーツ3)のポリシーを1箇所書き換えるだけで、全拠点・全リモートユーザーに即座に安全な共通ポリシーを適用できるようになります。
注意点:LBO設計における「パーツ間の連動」
「概念として分ける」ことはおすすめですが、実運用では「SD-WAN側でアプリ判定を行うLBO」を組むと、パーツ間が連動して設定変更が必要になるという落とし穴があります。
- 新しいSaaS追加時の運用負荷 「新しいSaaSをLBOしたい」場合、SSEだけでなくSD-WAN側(パーツ1)でもアプリ識別のポリシー変更やシグネチャ更新が発生します。実装次第でネットワーク側の運用負荷が跳ね上がります。
- DNS(名前解決)の経路の複雑化 LBOを成立させるには正しい名前解決が必須です。「DNS通信だけをパーツ3(SSE)に投げるのか、LBO経路にそのまま流すのか」というDNSの経路設計(パーツ2)とセキュリティ(パーツ3)の連動を整理しておかないと、「LBOした通信だけが繋がらない」といった複雑なトラブルを招きます。
「概念を分けて整理する」のは大前提として、実運用ではLBOやDNSをトリガーに各パーツがどう連動するかまで見据えて適用設計を作り込むことが、破綻しない運用の隠れた肝になります。
まとめ
SASEの適用設計を成功させるおすすめの第一歩は、「通信の2つの方向(外向き・内向き)」を意識しながら、「SD-WAN(制御)」「到達経路」「SSE(セキュリティ機能)」という3つのパーツに頭の中で分解してみることです。
この役割分担のイメージを持っておくだけで、ベンダーとの会話や社内調整、自由度の高い迂回シナリオの策定、そして実際の運用設計が驚くほどスムーズに進むようになります。

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