【SASEとは】SASEの仕組み
前提:通信の本質を「2つの方向」で整理する
SASEの複雑な仕組みを紐解く前に、企業の通信を「誰がどこにアクセスするか」という本質的な2つの方向に整理します。この2つの経路によって、SD-WANとSSEの主役が入れ替わります。
- インターネット向けの通信(外向き):拠点やリモート環境から、Microsoft 365などのSaaSや一般Webサイトへ抜ける通信。
- 課題: トラフィックの爆発と、未知の脅威への対策。
- 社内通信(内向き):拠点間(拠点 ⇄ 本社/DC)、またはリモート環境から拠点(リモート ⇄ 本社/DC)の社内システムへアクセスする通信。
- 課題: 拠点の安全な相互接続と、社外からの安全なリモートアクセス(ゼロトラスト化)。
SASEの仕組みは「動的なトンネル転送」である
上記2つの通信を最適化・安全化するため、拠点のSD-WANルータ(エッジ)やリモート端末と、クラウド上のSSE(セキュリティのPOP)の間で、安全かつ最適なトンネル(IPsec/GRE/ZTNAトンネル)を張り、そこに通信を動的に流し込む仕組みこそがSASEの本質である、と結論付けます。
前半:【インターネット向け通信】の仕組み
まずは「インターネット向けの通信」が、SD-WANとSSEの連携によってどう処理されるかを見ていきます。
SD-WANによる「トラフィックの識別と経路選択(LBO)」
- アプリケーション識別(DPI:Deep Packet Inspection): ユーザーがPCから通信を発生させた際、SD-WANルータはそれが「Microsoft 365」なのか「YouTube」なのか「社内システム」なのかをパケットのヘッダやシグネチャから瞬時に見分けます。
- 動的なポリシー制御: 事前に設定したポリシーに基づき、例えば以下のようなインテリジェントな経路選択(ルーティング)をエッジ装置が行います。
- リアルタイム性が求められ、かつセキュリティリスクの低い既知のSaaSへの通信は、拠点のインターネット回線から直接転送する(LBO)
- それ以外のカテゴライズされないインターネット向けの未知のWeb通信やM365 / BOX等、特定のSaaS通信はSSEへ転送する(SSE転送)
SD-WANからSSEへの「安全なカプセル化(転送)」
- 自動トンネル構築: SD-WANエッジは、最寄りのSSEの接続ポイント(POP:Point of Presence)に対して、IPsecやGREといった暗号化トンネルを常時(あるいは動的に)確立しています。
- サービスチェイニング: 拠点から出たパケットは、このトンネルによってカプセル化され、インターネット上の悪意ある第三者に盗聴されない状態で、安全にSSEのクラウド検問所へと送り届けられる仕組みです。
SSEによる「パケットのインライン処理と検査」
- 透過的プロキシ処理: SSEに到達したパケットは、一度カプセル化を解かれ、ユーザーに意識させることなく(透過的に)セキュリティ検査にかけられます。
- シングルパス・アーキテクチャ(並列処理): 届いたパケットに対して、「URLフィルタ」「クラウド制御」「アンチウイルス」「サンドボックス」などの検査を実行します。これにより、高度なセキュリティを掛けつつも、通信の遅延(レイテンシ)を極限まで減らします。
- 判定とパケット解放: 安全だと判定されたパケットだけが、本来の宛先(各種SaaSやインターネット)へと解放されます。
後半:【社内通信】の仕組み(拠点間 & リモート ➔ 社内)
次に「社内通信」の仕組みです。ここからはネットワークの相互接続(SD-WAN)と、社外からの安全なアクセス(ZTNA)の組み合わせが本領を発揮します。
拠点間の社内通信:SD-WANによるメッシュ接続
- フルメッシュVPNの自動構築: 拠点から本社やデータセンター(DC)への社内通信は、SD-WANエッジ同士が自動的に構築するオーバーレイ(IPsec VPN)ネットワークを経由します。閉域網やインターネット回線を束ね、最も品質の良い経路を動的に選択してパケットを届けます。
リモート(社外)から社内への通信:ZTNAとSD-WANの連携
社外(自宅や外出先)から社内のリソースへアクセスする、もう一つの社内通信の仕組みです。ソリューション(製品アーキテクチャ)によって、社内ネットワーク(SD-WAN網)への引き込み方に2つのアプローチが存在するため、それぞれ整理します。
- 「クラウド検問所(ZTNA)」での認証と端末チェック(共通の仕組み):社外PCからの社内宛て通信は、まずクラウド上のZTNA(SSE)のPOPへと吸い上げられます。ここでユーザーのID認証や端末のセキュリティ状態を厳格にチェックし、許可された通信のみを通過させます。
- アプローチA:クラウド間連携型(Prisma Accessなど)
- 仕組み: クラウド上のSSEと、社内ネットワークの入り口(代表拠点など)にあるSD-WANルータとの間に、あらかじめ安全な高速トンネル(IPsec等)を直接張っておく方式です。
- パケットの流れ: ZTNAで検査をパスしたパケットは、このクラウド間のトンネルを経由して社内のSD-WAN網へとそのまま流し込まれ、SD-WANのルーティング機能によって最終宛先(各拠点やDC)へと届けられます。
- アプローチB:社内コネクタ設置型(Zscaler Private Accessなど)
- 仕組み: 社内ネットワーク(SD-WAN網が届いている本社・DC、あるいは各拠点)の内部に、専用の接続用コネクタ(軽量な仮想アプライアンス等)を設置する方式です。このコネクタからクラウド(SSE)に向けて、内側から外側へリバーストンネル(アウトバウンド接続)を常時確立しておきます。
- パケットの流れ: ZTNAで許可されたパケットは、クラウドからこの「社内コネクタ」を目がけてトンネル経由で着信します。コネクタに届いたパケットは、そこから社内のSD-WAN網に乗っかり、目的の社内システムへと届けられます。
まとめ:なぜこの2つの組み合わせ(仕組み)が必要なのか
「インターネット向け通信」において、SD-WANだけの仕組みではパケットの中身を深く検査できず、SSEだけの仕組みでは拠点回線の負荷分散ができません。 「社内通信」において、SD-WANだけの仕組みでは社外からのリスクを防げず、SSE(ZTNA)だけでは社内網の広帯域なルーティングを支えられません。
「SD-WANがパケットを正しく識別して最適なルートで運び、SSEがそれを一瞬で検問・認証する」という連携が、外向き(インターネット)と内向き(社内)の双方でシームレスに機能しているからこそ、SASEは企業のインフラ基盤になり得る、と締めくくります。

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