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【SD-WANとは】SD-WANの仕組み

buffoon

一般的な解説記事では「コントローラが制御する」という表面的な話で終わりがちですが、実務の設計やトラブルシューティングでは、その裏で動いている技術の理解が不可欠です。

そこで今回は現役ネットワークエンジニアの視点から、SD-WANの内部で動いている「通信制御のメカニズム」を、パケットの流れに沿ってディープに解説します。

メカニズム:どうやってアプリケーションを見分けるのか?(DNS判定とDPI技術)

従来のルータは、パケットのヘッダにある「IPアドレス」や「ポート番号(L3/L4情報)」だけを見て通信を判断していました。しかし、現代のSaaS(例:Microsoft 365など)は宛先IPアドレスが頻繁に変わるため、これでは判別が追いつきません。

そこでSD-WANルータは、主に「DNS判定」「DPI(Deep Packet Inspection)」という2つのアプローチを組み合わせることで、アプリケーションをインテリジェントに識別しています。

アプローチA:最も早くて低負荷な「DNS判定方式」

通信の「一番最初」に行われる挙動に着目したのがDNS判定方式です。

端末がSaaSなどのアプリケーションにアクセスする際、必ず最初にドメイン名(例:teams.microsoft.com)の名前解決を行うためにDNSクエリを発信します。SD-WANルータはこのDNSクエリの中身をインラインで覗き込み、戻ってきた「Aレコード(ドメイン名に対応するIPアドレス)」の情報をキャッシュ(記憶)します。

これによって、「あ、この端末はいまからTeamsのIPアドレス宛に通信を始めるんだな」ということを、実際のデータ通信が本格化する前の『名前解決の段階』で先回りして判定できるのです。暗号化された通信であっても関係なく、非常に低負荷かつ高速に識別できるのが大きなメリットです。

アプローチB:中身や振る舞いまで見抜く「DPI方式」

DNS判定だけで識別しきれない場合や、より詳細な制御(例:同じGoogleの通信でも、Gmailは許可してYouTubeは制限するなど)を行うために使われるのがDPI技術です。

DPIでは、パケットのヘッダだけでなく、データの中身(ペイロード)や通信の振る舞い(シグネチャ)までL7(アプリケーション層)レベルでリアルタイムに解析します。 たとえポート番号が同じ「443(HTTPS)」の暗号化通信であっても、接続確立時のTLSハンドシェイクに含まれる「SNI(Server Name Indication)」情報などを読み取ることで、アプリケーション単位で正確に見分けることができます。

実務においては、まず「DNS判定」によってファーストパケットの段階で高速に経路を決定し、DNSだけで判別できないグレーな通信や、より細かいL7制御が必要なトラフィックに対して「DPI」を適用する、といったハイブリッドな実装が多く見られます。

メカニズム:どうやって通信をカプセル化するのか?(オーバーレイとアンダーレイ)

SD-WANの最大の特徴は、下層にある物理回線の種類(インターネット、MPLS、LTEなど)を意識せずに、その上に1つの大きな仮想ネットワークを作れる点です。 これを理解するための鍵が、「アンダーレイ」「オーバーレイ」の仕組みです。

パケットに新しいヘッダを「被せる」仕組み

SD-WANルータ(エッジ)にパケットが届くと、ルータは元のパケットをそのまま包み込み、新しいヘッダを付与します。これが「カプセル化(トンネリング)」です。

  • アンダーレイ(物理層): 実際に契約しているインターネットやMPLSなどの回線。
  • オーバーレイ(仮想層): カプセル化(主にIPsecやGRE、VXLANなどを拡張したプロトコル)によって自動的に張り巡らされた、拠点間のメッシュネットワーク。

物理的な回線(アンダーレイ)が何であれ、このカプセル化されたトンネル(オーバーレイ)を通すことで、全拠点がまるで同じ暗号化された安全なLANの中にいるかのように通信させることができます。

メカニズム:どうやって回線をリアルタイムに選ぶのか?

「回線の品質に合わせて通信を自動で振り分ける」という動的経路制御(Perfomance Based Routing / SLAルート)は、SD-WANの肝となる仕組みです。これは以下の2つのステップで毎秒行われています。

ステップ1:回線の「健康状態」を常にサンプリングする

SD-WANルータ同士は、トンネル内で「プローブパケット(測定用の小さなパケット)」を常にキャッチボールしています。これによって、各回線の以下の数値をリアルタイムに計測しています。

  • 遅延(Latency)
  • ジッタ(Jitter:遅延のゆらぎ)
  • パケットロス率(Packet Loss)

ステップ2:SLA(ポリシー)と照らし合わせて瞬時に切り替える

あらかじめ管理者が「音声通話(VoIP)は、遅延150ms以内・パケットロス1%以下の回線を通す」といったルール(SLAポリシー)を設定しておきます。 もし、メインで使っていたMPLS回線の品質が劣化してこの基準を下回ると、SD-WANルータはセッションを切断することなく、ミリ秒単位でパケットをもう一方の健康なインターネット回線へと迂回(スイッチング)させます。

メカニズム:どうやってコントローラはエッジを支配しているのか?(OMPと集中管理)

最後に、全体のコントロールの仕組みです。 SD-WANでは、ルータ同士が直接BGPやOSPFといった複雑なルーティングプロトコルをフルメッシュで回し合うことは、基本的にありません。

情報を一元集約する「ルートリフレクタ」のような仕組み

各拠点のルータ(エッジ)は、自分が持っているネットワーク情報や、カプセル化に必要な鍵の情報(暗号鍵)を、すべてクラウド上の「コントローラ(司令塔)」だけに報告します。 (※例えばCisco Catalyst SD-WANであれば、OMP(Overlay Management Protocol)という独自のプロトコルを使って通信します。)

コントローラは、集まった全拠点の情報を整理し、「君はあっちの拠点とこの鍵を使ってトンネルを張りなさい」という指示を各ルータに配ります。 ルータ同士が自律的に動きすぎるのを防ぎ、頭脳をクラウドに集中させることで、数千拠点の大規模ネットワークでも破綻せずに一元制御できる仕組みが成り立っています。

メカニズム:どうやって転送先を決めているのか

SD-WANは、パケットの何を見て、どうやって「他の拠点」「LBO(ローカルブレイクアウト)」「SSE(Zscalerなど)」といった多様な転送先を瞬時に選んでいるのか?解説します。

転送先を決める「3つの判断材料(マッチング条件)」

パケットがSD-WANルータに入ってきた瞬間、ルータがまずチェックする3つのレイヤの要素です。

  • 材料①:基本の「L3/L4情報(5Tuple)」:送信元/宛先IP、送信元/宛先ポート、プロトコル番号。
  • 材料②:先回りして見抜く「DNS判定」:端末が発信するDNSクエリのAレコード(名前解決)をスヌーピングし、実際のデータが流れる前に高速かつ低負荷でアプリケーションを特定する仕組み。
  • 材料③:中身まで覗く「DPI(Deep Packet Inspection)」:HTTPS(TLS)通信のSNI情報やパケットのシグネチャをL7レベルで解析し、同じポート443でも「M365」か「YouTube」かを正確に識別する仕組み。

転送先を決める「リアルタイムの回線品質(SLA)」

「回線の健康状態」の評価ロジックを解説。

  • プローブパケットによる常時監視: 遅延(Latency)、ジッタ、パケットロス率の毎秒計測。
  • SLAポリシーとの照合: 「Zoomの通信は遅延100ms以下の回線へ」といった管理者が定めたルールと、現在の回線ステータスをリアルタイムにマッピングする仕組み。

導き出される「3つの転送先」

上記の条件と品質を1つのポリシー(マトリクス)で評価した結果、パケットは以下のいずれかの最適なルートへと送り出されます。

  • 転送先A:他の拠点(拠点間VPN / オーバーレイ):社内基盤システム宛てなら、自動生成されたIPsecトンネルに乗せて他の拠点のSD-WANルータへ。
  • 転送先B:LBO(ローカルブレイクアウト):M365やBoxなど、データセンターを圧迫させたくないSaaS通信なら、トンネルを通さず拠点のローカルインターネット回線から直接Webへネイティブ転送。
  • 転送先C:SSE(Security Service Edge):一般のWeb閲覧や、より強固なセキュリティチェックが必要なトラフィックなら、クラウド上の安全な関門(例:Zscaler)へ向けて自動的にGRE/IPsecトンネルを張り、トラフィックをサービスチェイニング(転送)。

設計時にハマりがちな「ポリシーの優先順位」

  • 現場のTips: アプリ判定や「any(すべて)」の宛先でSSE宛ての転送ポリシーを書く際、社内宛て(プライベートIP)の通信を巻き込んでしまわないよう、ポリシーのSequence番号(優先順位)をどう設計すべきかという実務的な注意点。

まとめ:仕組みがわかれば、設計の意図が見えてくる

今回は、SD-WANの裏側で動いている4つのコア技術(DPI、カプセル化、動的SLA計測、集中制御プロトコル)のメカニズムについて一歩踏み込んで解説しました。

  • DPIによってL7レベルでアプリケーションを特定し、
  • オーバーレイ技術によって回線を隠蔽・暗号化し、
  • プローブパケットで回線品質を秒単位で監視し、
  • コントローラが独自のプロトコル(OMPなど)で全体を統制する。

製品(Cisco、Fortinet、VMwareなど)によって細かい名前は違えど、SD-WANが裏でやっている本質的な仕組みは共通しています。ここを押さえておくと、実務でのトラブルシューティングや、次世代のセキュリティ(SSE/SASE)を組み合わせる際の理解度が格段に上がります。

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管理人
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自称SASEエンジニアです。 2児の父親をやりながら、日々エンタープライズ向けの次世代ネットワークインフラと格闘しています。一日一投稿を目標に投稿頑張りますので、是非読んでください!
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